デジタルトランスフォーメーションの難しさとその解決策


3分間ラーニング, ニュースの切り口

今回は前回の続きです。

デジタルとリアルが融合することによって、新たなビジネスモデルが生まれたり、様々な仕組みが変わる。
そして私たちの働き方や生活、社会が変わる。

この「デジタルトランスフォーメーション(以下DT)」について、前回はお話ししました。

デジタルとリアルの融合。それは様々な形で既に私たちの目の前に表れています。

DT_dif.jpg





Amazonの無人コンビニ「Amazon Go」は、「デジタルでリアルをもっと便利にする」というモデルです。
Uberやメルカリのマッチングサービスは、「デジタルでリアルとリアルとマッチングさせる」モデル。
AIを用いてDMの発送先を選別し、ヒット率を上げるのは「デジタルでリアルのコストダウンをはかる」効果があるわけです。

そしてポケモンGOのレイドバトルのシステムは、「デジタルでリアルの売上高(スポンサーとしてジムが設置されているイオン等の)を伸ばす」というモデルであり、また「リアルで人が動くことでデジタルの売上(ゲーム内課金)を伸ばす」モデルとも言えます。

しかし、これら様々なDTには、それなりの難しさがあり、それがDTビジネスを阻害してしまう。これも現実です。

前回ご紹介した通り、私が参加したNTT-DATA主催セミナーでは、それを4つに分類していました。(表現は私なりに言い換えています)



1. リアルの不可逆性

デジタルのゲームはリセットできるし、プログラムは書き換えやアップデートが簡単です。
しかし当たり前ですが、リアルで製作した商品は簡単に作り直しできません。
デジタルだけで完結するビジネスと比べ、リアルが融合することで、試行錯誤の時間とコストは大きくなります。

これにより、せっかく斬新なモデルを思いついても二の足を踏んでしまうと、DTビジネスで後れを取ってしまいます。



2. モデルの見えにくさ

デジタルとリアルを融合させたビジネス。しかしそれは構想レベルで、目の前には影も形もありません。会社のトップに説明しようにも、企画書のイラストだけではどうにもピンと来ない。

当然ですね。どこかがやっていることならまだ説明もでき、相手も理解できるでしょうが、それだと単なる二番煎じで、イノーベーションなど期待できません。
結果「よくわからん」と却下されてしまっては悲劇です。



3. 人材確保の難しさ

技術者だけでなく企画担当者にしても、デジタル、リアルの両方に精通した人材は非常に希です。
そうすると当然様々な専門家を集めることになりますが、多くは本業を持っています。
通常の仕事の片手間でできるほど、DTビジネスの企画は甘くありません。
かといって上手くいく保証はどこにもありませんから、何人ものエース級を専任にできるほど、組織の懐は深くないのが現実でしょう。

4. 最適化の困難さ

DTビジネスは、「今までに無い価値」を顧客に対して提供します。
しかしそれに伴う顧客の体験はとても多様で複雑です。顧客のプロフィールや思考によって、「どのような体験としてとらえるのか」は千差万別なのです。

とすると、どのような顧客に対してDTビジネスを最適化するか。
それが大きな問題となります。
多くのパターンに対応しようとすれば、それはシステムの複雑化に繋がりますから、コストは膨れあがり、その結果「高額のサービス」になれば顧客はつかめませんし、またセキュリティやシステムのメンテナンスも難しくなってしまうのです。



しかし、これら「DTビジネスの壁」にもソリューションは存在します。

まず、「1. リアルの不可逆性」については、3Dプリンタが活用できる場合もあります。

金型から起こすとコストがかかりますが、まずは3Dプリンタでプロトタイプを作る。マイクロソフトのSurfaceはそうして開発されたそうです。

また、コストを押さえるためには地域や期間を限定する「スモールスタート」という手もあります。



「2. モデルの見えにくさ」も、先の3Dプリンタと同様、デジタルが活用できます。

そう、VRの技術で疑似体験してもらうのです。
日本橋室町プロジェクトは、そうして上層部を納得させたとのこと。



次に「人材確保の難しさ」は、Appleの事例が参考になります。
iPodの開発にあたり、ゲイツは専門家を集め、短期集中でのタスクフォースを組ませました。
短期間なので、その間はiPodのプロジェクトに専念できる。ダメでもコストはかなり節約できます。
iPodは、そうして生まれたのですね。



最後に「最適化の困難さ」は、「割り切ってシンプルにする」しかありません。いや、冗談でも何でも無く。

そもそも日本企業は「多様な顧客を想定しすぎ」であり、「全ての顧客を大事にしがち」です。
「こういう人からは文句が出るかもしれないけど仕方が無い」と割り切らないから、オーバースペックの商品・サービスを作り、結果「高く」なってしまうのです。

Amazonのダッシュボタンなどは、「洗剤が切れかけたら押すだけ」と、顧客の行動を極端なまでにシンプル化しています。
「そろそろ洗剤が切れそうですよ、と購買履歴からリマインドしてくれる」のようなニーズもあるでしょうが、「いろいろ機能盛り込むと高くなるからやらない」と割り切っているのです。



いかがでしょうか。
DTビジネスは確かに難しいです。簡単に思いついて簡単に大もうけできるわけもなく、失敗してリソースの無駄遣いの後、ほんの一握りの人や企業が成功します。

しかしだからと言って静観していては...

もうおわかりですね。前回のエンディングと同じことを言います。
他社/他者が起こしたDTによるデジタル・ディスラプションの波に飲まれ、消えていく運命を受け入れるしかありません。


プロフィール

桑畑 幸博

慶應丸の内シティキャンパスシニアコンサルタント。
大手ITベンダーにてシステムインテグレーションやグループウェアコンサルティング等に携わる。社内プロジェクトでコラボレーション支援の研究を行い、論旨・論点・論脈を図解しながら会議を行う手法「コラジェクタ®」を開発。現在は慶應丸の内シティキャンパス で専任講師を務める。また、ビジネス誌の図解特集におけるコメンテイターや外部セミナーでの講師、シンポジウムにおけるファシリテーター等の活動も積極的に行っている。コンピューター利用教育協議会(CIEC)、日本ファシリテーション協会(FAJ)会員。

2017年11月

      1 2 3 4
5 6 7 8 9 10 11
12 13 14 15 16 17 18
19 20 21 22 23 24 25
26 27 28 29 30    

月別 アーカイブ

著書

Twitter