「エモい」の考察

野球のU18ワールドカップ。
日本は残念ながら3位に終わりました。
ドラフト1位確実の早実の清宮選手、そしてこの夏の甲子園を湧かせた広陵の中村選手に花咲徳栄の清水選手など、豪華なメンバーではありましたが、やはり中村、清水の甲子園組は本調子ではなかったようですし、木製バットへの慣れの問題もあったのでしょう。

その中村選手や清水選手が大活躍した甲子園。
なぜか我がムスメが今年から「大ハマり」してしまいました。
見られる試合は全てオンタイムで観戦し、決勝は録画して最初から全部見ていました。

彼女曰く、「甲子園はエモい」のがハマった理由のようです。

特に順決勝の広陵-天理戦の9回裏、天理の脅威の粘りと、それでも負けてしまった天理のエースが、広陵の中村選手に自分の「底力カード」を渡し、後を託したシーンが「激エモ」だったようです。

...しかし、若者コトバとして最近よく耳にする、この「エモい」とは何なのでしょうか?

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「エモい」とは、心が揺り動かされるような感情・感動を意味する英語『emotion(エモーション)』を略したものに、形容詞化する接尾語『い』をつけたものです。

2016年の三省堂新語大賞では、「ほぼほぼ」に次ぎ第2位となっていますが、元々は2000年代後半からミュージシャンや音楽ファンに使われ始めたようです。
「あのバンド、なかなかエモいね」のような使い方ですね。

それが次第に音楽関係以外にも広がり、「あのドラマのラストシーン、超エモかったねー」などと若い女性を中心に普及していったわけですね。

とすると、「感動した」=「エモかった」?
ムスメに聞くと、「違う!」とのこと(笑)

「エモい」は、もっと複雑な感情であり、「感動した」は単に心が揺り動かされた状態を抽象的に表現したに過ぎないそうです。
だから「感動した」は、「どういう風に?」と問われたら、「最後に二人が出会えて良かった!」のように説明可能なのだと。
「エモい」は、嬉しい気持ちや切ない気持ちなど、様々な感情が入り交じっており、それだけに複雑なのだそうです。

彼女が、「他のコトバで一番近いのは...」と置き換えたのは、「あはれ」でした。

「もののあはれ」は、「源氏物語」に代表される平安文学の芸術的概念です。
平安文学のもうひとつの金字塔である「枕草子」のコンセプトである「をかし」が、どちらかと言えば知的好奇心という「アタマ」で感じるものだとしたら、「あはれ」は視覚・聴覚を通じてもっと情緒的な「ココロ」で感じるものと言えるでしょう。

ムスメ曰く、「だから紫式部は小説家で、清少納言はブロガーなのよ」だそうです(笑)



ここで考えてみましょう。

なんでも「ヤバい」と対象を評したり、「それな」と同意したり、はたまた「エモい」と心情を表現する若い人に対し、私たちはしばしば「ボキャブラリーの欠如」を指摘します。

しかし、こうした若者コトバは、本当に「ボキャプラリーの欠如」なのでしょうか。

先に述べたように、「感動した」という抽象的表現でなく「エモい」を使うのは、それだけ複雑な感情を表現しようとしているわけです。

特に、「エモい」は「あはれ」の持つ「無常観から来る切なさやもの悲しさ」という「マイナスの感情」が、「嬉しい」や「楽しい」など「プラスの感情」と混ざった、とても複雑な感情です。

「エモい」が流行している理由の一つとして、若者たちの感受性が私たちの頃より鋭くなっているから、と言えないでしょうか。



さて、私はここで世代論や文化論について語りたいわけではありません。

若者たちの感受性が鋭くなっている。この仮説が当たっているとしたら、それをどう私たちは活かすべきか、それを考えても良いのではないでしょうか。

たとえばマーケテイング。
若者たちをターゲットとした企業であれば、彼ら、彼女らに「エモい」と言ってもらえるような商品・サービスとはどのようなものか?
そして「エモい」と感じるプロモーションは?

「エモい」に限らず、トレンドをビジネスに活かす、とはそういうものだと思うのです。

プロフィール

桑畑 幸博

慶應丸の内シティキャンパスシニアコンサルタント。
大手ITベンダーにてシステムインテグレーションやグループウェアコンサルティング等に携わる。社内プロジェクトでコラボレーション支援の研究を行い、論旨・論点・論脈を図解しながら会議を行う手法「コラジェクタ®」を開発。現在は慶應丸の内シティキャンパス で専任講師を務める。また、ビジネス誌の図解特集におけるコメンテイターや外部セミナーでの講師、シンポジウムにおけるファシリテーター等の活動も積極的に行っている。コンピューター利用教育協議会(CIEC)、日本ファシリテーション協会(FAJ)会員。

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