客数と客単価

皆さんあけましておめでとうございます。


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さて、2013年最初のエントリーは、いろんな人がいろんなことを言っている「マクドナルドの『60秒サービス』」について語ってみようと思います。

マクドナルドのこのキャンペーン。

「サービスの質の低下だ」
「従業員の負担増だ」

など、巷では少々批判的な意見が多いようですが、私の意見は「マーケティングの手段としてはアリ」です。さらに言うと、「マクドナルドは結局客単価より客数で勝負するつもりなんだな」ということ。

これはどういうことなのか、そのロジックをご説明します。



「売上を伸ばす」のはどのような企業にとっても重要な命題のひとつですが、外食産業ではその方向性は『店舗数を増やす』と『一店舗あたりの売上を伸ばす』に分解できます。
この2つのかけ算がチェーン全体の売上高になりますから当然ですね。

さらに『一店舗あたりの売上を伸ばす』は『客数を増やす』と『客単価を高める』というこれまたかけ算型で分解できます。

そして客数と客単価、この「どちらを重視するのか」は企業、特にこうした外食産業の経営戦略において非常に重要です。

「どちらも伸ばすのが理想じゃないの?」と思われるかもしれませんが、この2つはトレードオフの関係になりやすいからです。

たとえば客数を増やそうと考えた場合、手っ取り早いのは値引きですが、これは客単価の低下に直結します。
また、客単価を増やすためにサイドメニューや飲み物を充実させると、今度はオペレーションが煩雑になったり客が長居をするようになり、結果回転率が低下して顧客数は減少します。

だから客数と客単価、どちらかを選ばなければならない。
逆に言えば客数と客単価のどちらを犠牲にするかを選ばなければならないのです。

「戦略とは選択である」。このブログで私が何度も言っていることですね。

ちなみに、カフェやファミレスで最近増えている「各テーブルにコンセント」や「フリーwi-fi(無線LAN)スポット」などは完全に『客単価重視』の具体策。
「仕事や打合せで長時間いてもいいですよ。でもその代わりたくさん注文してくださいね」と言っているわけです。『客単価』はさらに『単品の平均価格』と『一人当たりの平均注文数』に分解されますから。

逆に「メニューの絞り込み」や「テーブル席を無くしてカウンターのみ」という手段は、「さっさと食べてさっさと帰ってね。次のお客さんが待ってるから」という『客数重視』の具体策なわけです。



では、話をマクドナルドに戻しましょう。

今回の『60秒サービス』が『客数を増やす』ことに繋がるのは2つの視点があります。

まず、単純な広告効果。

「60秒過ぎるとタダ券もらえるってよ」という期待で、マクドナルドに行く人が増える。
さらにメディアやクチコミ(特にネット)で話題になることで、「コストゼロのプロモーション」にもなります。
つまり『新規顧客の獲得』による客数増、というロジックです。

そしてもうひとつが『リピート率の向上』による客数増。

たとえ60秒を越え、タダ券を出したとしても、そのタダ券を貰った人が「それを使うためにまた来る」ことが期待できます。
そしてそういう人は「タダ券でハンバーガーを手に入れるだけだと、ちょっと恥ずかしい(あるいは申し訳ない)」という心理が働き、ポテトやコーヒーを買ってくれる。
もちろんそういう人ばかりではありませんが、これはコーヒー無料券を大量配布した時など、過去のデータからある程度期待値として計算しているはずです。

実のところは『客数を増やす』は『顧客の母数を増やす(つまり新規顧客増)』と『再来店率を高める』という「母数×率」のかけ算に分解できますから、マクドナルドはこの両方を狙っていると考えることができるわけです。

ちなみにこの『母数/率』という2つの方向性は、ほとんどトレードオフにならないため、『客数/客単価』と異なり、両立させることが可能です。

こうして考えていくと、今回のマクドナルドの『60秒サービス』はなかなかよく考えられたマーケティングの具体策と言えるわけですが、手放しで賞賛はできません。

それはどういう部分かと言えば、「ほぼ一律に全店舗で実施している」という点と、「社内に狙いが浸透していない」という点です。

「損して得取れ」という戦略ではありますが、その損はできるだけ減らすに越したことはありませんし、そのためには「60秒を超える率」のバラツキを考慮する必要があります。
「出店から時間が経ったベテランが多い店舗」と「新規開店したばかりの新人ばかりの店舗」では、この60秒を超える率は確実に違ってきます。
また、住宅街に位置する店舗とターミナル駅に隣接した店舗でも、オペレーションのリズムの違いでその率は変わってくると考えられます。

同じ『客数を増やす』ことを目的としていても、一律でなくもう少しキャンペーンのパターンを用意し、適切な選択が出来るようにすべきではなかったか、というのが私の意見です。

そしてもうひとつ。
実際ネットでも「秒を気にしすぎたあまりのオペレーションミス」がいくつも報告されているように、サービスの質の低下や従業員のストレスは現実のものとなっています。

これは今回のキャンペーンの狙いが末端まで浸透していないためと考えられます。
具体的に言えば「60秒にこだわりすぎるな。タダ券を出すことに罪悪感を感じるな」ともっと各店舗に通達すべきでした。
「速く出す」のもサービス向上ですが「ミスをしない」ことがその前提ですから。

少なくとも、「60秒超過はn%以内ならOK」というガイドラインは店舗に応じて明確にすべきだったのではないでしょうか。

ということで、総合的に見れば「マーケティングとして良い施策ではあるが、段取りに問題有り」なのが今回のマクドナルドのキャンペーンと言えるでしょう。

さらにもうひとつ懸念していることがあります。
それはマクドナルドが以前『100円バーガー』で客数増に成功しましたが、最近は『クォーターパウンダー』等のの商品投入で「客単価を高める」施策にシフトチェンジしていたはずだからです。
先ほど述べた通り客数と客単価はトレードオフになりやすいですから、このキャンペーンが"虻蜂取らず"になることが少し心配です。



さて、今回はマクドナルドという外食産業について「客数か客単価か」を考えてきましたが、この「分解して戦略を考える」ことは全ての業種に有効です。

B2Bの企業にしてもこれを『顧客数/顧客当たりの平均売上高』と読み換えることが出来ますし、『顧客当たりの平均売上高を高める』を『顧客シェアを高める(ひとつの顧客に自社の様々な商品・サービスを買ってもらう)』と『できるだけ高く売る』に分解し、「どちらの方が得策か」を考えることが出来るはずです。

ぜひ、この戦略的思考をお仕事の中で役立ててください。

プロフィール

桑畑 幸博

慶應丸の内シティキャンパスシニアコンサルタント。
大手ITベンダーにてシステムインテグレーションやグループウェアコンサルティング等に携わる。社内プロジェクトでコラボレーション支援の研究を行い、論旨・論点・論脈を図解しながら会議を行う手法「コラジェクタ®」を開発。現在は慶應丸の内シティキャンパスで専任講師を務める。また、ビジネス誌の図解特集におけるコメンテイターや外部セミナーでの講師、シンポジウムにおけるファシリテーター等の活動も積極的に行っている。コンピューター利用教育協議会(CIEC)、日本ファシリテーション協会(FAJ)会員。

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