抽象の梯子を徹底的に上り下りする


3分間ラーニング

『抽象の梯子(はしご)』という言葉をご存じでしょうか。

これは米国の言語学者で後に上院議員も務めたサミュエル・I・ハヤカワの残した有名な概念です。

たとえば「レンガを積む」という言葉はとても具体的です。その作業そのもの、見たとおりの疑いようもない作業の名称です。

しかしその作業をしている人に「あなたは何をしているのですか?」と尋ねると、その人は「私は壁を作っています」と答えるかもしれません。

これもまた嘘は言っていません。「レンガを積む」との違いは、そこに『意味』が込められた点です。

これは具体的な作業が一段抽象化されたと言えます。
逆から見れば、「壁を作る」を具体化(ブレークダウン)すると「レンガを積む」があり、他にも「レンガを積む前にセメントを塗る」などがあるわけですね。

さて、では今一度レンガを積んでいる別の人にも「あなたは何をやっているのですか?」と聞くとします。そうしたらその人は「私は教会を建てています」と答えるかもしれません。




もうおわかりでしょう。

今度の答え「教会を建てる」は、「壁を作る」がさらに抽象化されたわけです。

このように行動のようなコトであれ商品のようなモノであれ、「それにはどのような意味があるのか」を遡っていくのが「抽象の梯子を上る」ことです。

意味のレベルを梯子にたとえているわけで、逆にモノやコトが「どのような要素で構成されているか」を考えることが、「中小の梯子を下りる」ことになります。

このように私たちは必要に応じて「抽象の梯子を上り下り」しながら思考しています。

たとえば、「どうやったらこの課題が実現できるかか?」と解決策の分析を行う時には梯子を下りながら具体的な手段を探しますし、「何のためにこの仕事をやるべきか?」と目的を明確にしたい時には梯子を上ります。

ただ、私たちはこの梯子を上り下りする際、中途半端になりがちです。

つまり梯子を下りて解決策を考える時、まだ抽象度が高い段階で下りるのをやめてしまい、具体的な作業ベースにブレークダウンせずに部下に指示を出したりします。

そうすると部下としては結局何をやればよいかわからず、結局手をつけなかったり手当たり次第にあまり意味のないことをやってしまう場合もあります。

まさに『かけ声倒れ』です。

梯子を上るケースでは、仕事の意味(目的)を伝える際に「レンガを積んで壁を作れ」と「教会を建てるためにレンガを積め」ではどちらの方がやる気になりますか?

やはり『意義(つまり意味の上位レベル)』が明確な方がモチベーションも高まりますし、「であればより教会らしい見栄えにするためにこういう積み方をしよう」などの創意工夫も期待できるはずです。

もちろん「どこまで梯子を上り(抽象化する)、そして下りる(具体化する)べきか」はケースバイケース。あまり下りすぎると「そんな細かいところまで指示しなくても」になりますし、上りすぎると「そんな大層なこと(笑)」と現実味が薄くなってしまいます。

しかしある程度は梯子を上り/下りし、「どのくらいのレベル感がこの場合は適切か?」と考えるべきでしょう。



さて、上記の例はどちらかというとコミュニケーションについての梯子の使い方を解説した形になっているので、今度は思考、特に戦略立案などのレベルの高い思考を行う際のポイントについて。

梯子を下るというのはまさにロジックツリー的な分析思考であり、このブログでは何度も語っているので割愛するとして、ここでは「徹底的に梯子を上ってみる」ことについて具体例で述べてみたいと思います。

戦略やマーケティングについて検討する際、具体的な定性/定量情報から「何が言えるのか」という仮説を立てるのは必須のプロセスであり、これもまた梯子を上る行為と言えます。

しかしここで中途半端に抽象化すると、「よく耳にする一般論」に終始してしまい、新たな気づきとそれに基づいた斬新な戦略などを思いつきにくくなります。

実際にあったケースでご説明しましょう。

東宝の戦略について検討すると、財務分析や具体的情報から「業界ナンバーワンのスクリーン数が強み」とか「制作よりも配給が利益の源泉」などが見えてきます。

しかしこれらは既に語られていることですから、梯子を上るのをここでやめてしまうと、新たな発想はなかなか出てきません。

そこでこれをもう一段抽象化、つまり梯子を上ると何が言えるのかを考えてみるのです。

たとえばこう言うこともできるはずです。

「東宝は流通業である」

そうすると映画会社である東宝を、様々な情報からあえて別業態である流通業「として」見るようになります。

「出店地域について何か特異な傾向があるか?」
「品揃えに何がコンセプトと秘密があるのでは?」
「店舗の種類とそのターゲット顧客は?」

などなど、流通業というレベルまで抽象化したことにより「だとすると...」という様々な疑問や仮説が生まれてきます。

これこそ「徹底的に抽象の梯子を上った」ことの効果なのです。

中途半端に抽象化せず、梯子を徹底的に上ってみる。

あなたのお仕事でも使える思考のテクニックだと思いませんか?

プロフィール

桑畑 幸博

慶應丸の内シティキャンパスシニアコンサルタント。
大手ITベンダーにてシステムインテグレーションやグループウェアコンサルティング等に携わる。社内プロジェクトでコラボレーション支援の研究を行い、論旨・論点・論脈を図解しながら会議を行う手法「コラジェクタ®」を開発。現在は慶應丸の内シティキャンパス で専任講師を務める。また、ビジネス誌の図解特集におけるコメンテイターや外部セミナーでの講師、シンポジウムにおけるファシリテーター等の活動も積極的に行っている。コンピューター利用教育協議会(CIEC)、日本ファシリテーション協会(FAJ)会員。

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