2010年3月12日 3分間ラーニング

ワールドカップへの戦略

先週バンクーバー冬期オリンピックに触れたので、その続きというわけではないのですが、本日は今年行われるもうひとつのスポーツの国際的イベント、南アフリカで開催されるサッカーワールドカップを題材として取り上げてみようと思います。

ご存じの通りサッカー日本代表は、岡田監督のもと6月14日のカメルーン戦からE組での予選がスタートします。
スター選手ですらレギュラーが確約されないブラジル・ポルトガルのいる『死のG組』こそ免れましたが、ヨーロッパ予選を8戦全勝でトップ通過したオランダ、バルセロナやインテルのエースストライカーのエトーを擁するカメルーン、ポルトガルと同組だったヨーロッパ予選を1位通過したデンマークと、日本のライバルはかなり強敵です。

しかし岡田監督は言います。

「目標は予選突破でなく、決勝トーナメントで4強に残ることだ」と。

さて、あなたはこの目標についてどう思いますか?

私の考えは・・・

「この目標のおかげで予選突破もなくなった」です。



もちろんこれは個人的考えです。

サッカーに限らずスポーツは何が起こるかわかりませんから、日本が4強に残る可能性はゼロではありません。

しかしながらFIFAの世界ランク40位という国際的評価、そして直近の東アジア選手権での惨敗を見れば、「ワールドカップ4強」というハードルがとてつもなく高い目標であることは確かです。

ただ、私は単に「実力的に4強は無理」と言いたいのではありません。

「4強を目標にしたために、そのマイルストーンである予選突破すらも難しくなった」と言いたいのです。

よく考えてください。

「予選を突破するための戦略と、4強に残るための戦略は違う」のです。

この考えに疑問を持たれる方もいるでしょう。

「なんで? 4強に残れる力があれば予選は突破できるでしょ?」

この『大は小を兼ねる』という考え方は理解できますが、その『大』がそう簡単に実現できると思いますか?

具体的に考えて見ましょう。まずは予選突破を目標にした場合の戦略です。

予選の対戦国は決まっています。ライバルそれぞれの強みや弱みの分析はとうに終わっているでしょう。
としたら、次にやるべきことは明白。試合毎の課題、つまりやるべきこととやらない(諦める)ことを明確にし、それを練習で繰り返して定着させるしかありません。
課題を明確にするプロセスの中では、日本の強みと弱みを明らかにし、どの強みを活かしてどのようなプレーに持ち込めば、相手の弱みを突くことが出来るのか、そしてそれが出来る選手は誰なのか、といった分析も必要です。

この分析と課題実現のトレーニングはもちろん容易いことではありませんが、それでもかなり具体的に戦術(対戦国への対策)を練ることが出来るのはおわかりいただけるでしょう。

では次に4強を目標にしたら?

対戦相手は予想も付きませんから、試合毎の具体的な戦術など立てられるはずもありません。

とすれば「どこと対戦しても勝てるだけの実力」をつけるしかないのです(笑)

「日本代表は決定力不足」と言われて久しいですが、ポルトガルを上回る決定力を目指さなくてはなりません。
そしてイタリアを超える守備力を、ブラジルを翻弄するほどの瞬発力を。

だから実のところ、4強を目指そうが優勝を目指そうが、ほとんど戦略に違いはありません。
4強と優勝を目指す場合の具体的な強化ポイントの違いが明確化できるはずもなく、「優勝はさすがに言い過ぎだから4強くらいにしておこう」程度なのでしょう。

このように、

◆予選突破を目標にした際の戦略:
 →対戦相手毎に戦い方を変える『個別突破戦略』

◆4強を目標にした際の戦略:
 →どこと戦っても勝つための『総合力強化戦略』

と目標が違えば戦略も違うのです。

では考えてみてください。
「現在の日本代表の実力」において、そして「ワールドカップまで約3か月というタイミング」において、どちらの戦略を取るべきでしょうか?

これで、私が「4強を目標にしたために、そのマイルストーンである予選突破すらも難しくなった」と言う根拠がおわかりいただけたと思います。



さて、しかしこれはサッカーだけの話ではありません。

戦略論を勉強した方の中には、「あれ? これって・・・」と思われた方もいるかもしれません。

そう、この2つの戦略は、ランチェスター戦略における“弱者の戦略(個別突破)”と“強者の戦略(総合力強化)”に置き換えて考えられます。

後発の中小企業が、市場を独占/寡占する大企業に正面から戦いを挑んでも建てるはずがありません。
だから商品ラインアップや地域、顧客などを絞り込んでそこに経営資源を集中する。

これがランチェスター戦略の“弱者の戦略”の基本です。

「戦略とは選択のこと」「戦略とはやらないことを決めること」という格言の通り、ランチェスター戦略も『選択と集中』の必要性を我々に教えてくれます。

「我が社が目指すべき市場でのポジショニングはどこか? そのためには何に特化し、何を捨てるべきか?」

「なりたい自分になるためには、特に何を経験・勉強すべきか? その結果どのように他者と差別化された人材になるのか?」

話をサッカーに戻すと、岡田監督は“強者の戦略”を志向しているようにすら見えます。

「それは時期尚早だろう」という意見もあるでしょうが、実のところランチェスター戦略の“強者の戦略”は、今や業界トップの大企業すらも選ばなくなっています。

電機メーカーはフルラインアップをやめ、得意分野に特化しようとしています。
あのトヨタですら、車種の大胆な絞り込みとハイブリッドへの経営資源の集中を明言しています。

「自分のことを強者と考えること自体が危険」であることに気づいたのです。



私は、高い目標を持つことを否定しているわけではありません。

高い目標によってモチベーションが高まるのも確かです。
しかしながら、高すぎる目標は逆効果。
ハードルは必要ですが、高すぎるハードルは最初から飛ぼうという気を奪ってしまいます。

少なくとも選手のモチベーションを下げることだけはしないようにと、岡田監督へはそれを願うばかりです。






サッカーについては素人同然の私ですが、日本はサッカー先進国とは全く違った戦略を立てなければ、永遠に予選止まりだと思います。
個人的には、日本は『スペシャリスト集団による試合毎のシミュレーション力』で勝つ戦略が向いているような・・・

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