2007年9月 5日 3分間ラーニング, 講師の公私

「ボレロ」を多面的に評価する

元々はロック小僧であった私ですが、最近はどっぷりとクラシックにハマってます。

作曲者としては特にラヴェルのファンで、あの美しくも人を喰ったようなメロディラインと曲の展開、そして精緻かつ他の作曲家とは一線を画したオーケストレーションに、いつも驚かされ、そしてニヤリとしてしまいます。

そこで本日はいつもと趣向を変えて、ラヴェルの曲で最もスタンダードな「ボレロ」について、数々の演奏(つまり演奏者が異なる)を私なりに(本格的なクラシックファンからの反論も覚悟の上で(笑))評価してみようと思います。

とはいえ私がこのブログで書く以上は、やはり思考力向上へのヒントがなくてはなりません(笑)

ですからまず、曲を評価するための切り口、つまり評価軸の解説からはじめたいと思います。
(というかその評価軸の考え方を中心にお話ししていきます)


さて、我々が何かを評価しようとした場合、どのようにして考えるでしょうか。
たとえばA,B,Cという3つの商品の中から「どれをプレゼントとして買うか」を決めるシーンを想像してみてください。

もちろん直感で決めるというのもあるでしょうし、自分の好みだけで決めるという手法もあり得ます。ですが、それでは相手に喜ばれないリスクがありますから、普通はもう少し考えるはずです。

◆A,B,Cそれぞれの「良い点」と「悪い点」を挙げて評価
◆「価格」「品質」「見栄え」「機能」に分けて、○×や点数をつけて評価

といった具合に。

そう、これを考えることが大事なのです。
「あーでもないこーでもない」と悩む時間も、プライベートな買い物ならまた楽しいものですが、仕事ではこれは単なる無駄な時間。
だから何か評価して決める場面では、「評価の仕方を考えて決める」ことがまずやるべきことなのです。それも漠然とではなく明確に。

そしてこの評価の仕方を考える際にもうひとつ忘れてはならないのが、「評価軸にモレとダブリはないか?」と考えることです。
評価軸にモレがあれば、プレゼントの相手から「こういう点は考慮してくれなかったの?」と言われかねませんし、ダブリがあっては同じことを2度考えるという無駄な時間を作りかねませんから。

この2点を心得た上で対象を評価すれば間違いは少なくなります。
これが「多面的に評価する」ということなのです。


では、私がこの「ボレロ」という曲を評価する際の評価軸ですが、以下を設定してみました。

(1)リズムの同調性
・ボレロは独特のリズムがキモですから、たとえばスネア(小太鼓)がモタったり、ソロ楽器が走ってしまっては台無しです。
・エンディングが「ダダダダダン!」とビシっと決まることも重要ですね。

(2)ソロ楽器の巧拙
・リズム以外の部分で音を外したり、抑揚がおかしかったりしてもまた論外でしょう。

(3)アンサンブルの美しさ
・ソロだけでなく、合奏パートの響きが美しくなくてももちろんダメです。オーケストラ全体の評価と言ってもいいでしょう。

(4)展開の緩急と強弱
・基本一定リズムを刻むこの曲ですが、指揮者によっては微妙にスピードの調節を行っており、それが高揚感を生み出します。
・そしてスピードだけでなく、強弱をつけてメリハリを出すことももちろん重要です。まさに指揮者の力量が問われる部分です。

さて、この評価軸、これはあくまでも「ボレロ」専用です。同じラヴェルの作品でも、ピアノ曲である「夜のガスパール」であれば別の評価軸を設定しなければいけません。

これは何を意味しているのか?

それは、『評価軸はその場面に応じてフレキシブルに変えなければならない』ということです。
評価する対象や状況によって、最も適切な評価軸を選択、設定しなければ、間違った判断をしかねないのです。たとえばプレゼント選びにしても、相手によって評価軸は変わるはずです。
ですから、仕事で何か評価・判断しなければならない場面でも、これに留意してください。


それではようやく(笑)本題です。
以下にいくつかのボレロの演奏を評価してみました(4項目で20点満点)。
ご興味のおありの方は参考にしていただければ幸いです。


◆カラヤン/ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団
 (1)リズムの同調性    :2
 (2)ソロ楽器の巧拙    :4
 (3)アンサンブルの美しさ :3
 (4)展開の緩急と強弱   :2 [総合11ポイント]
 ☆天下のカラヤン&BPOだが、適当にやっているようにしか聞こえない。感動の無い作品。

◆バーンスタイン/フランス国立管弦楽団
 (1)リズムの同調性    :4
 (2)ソロ楽器の巧拙    :4
 (3)アンサンブルの美しさ :1
 (4)展開の緩急と強弱   :3 [総合12ポイント]
 ☆後半で管の伴奏が延々と音を外し続けるのがとにかく残念。正直あまりオススメしない。

◆アバド/ロンドン交響楽団
 (1)リズムの同調性    :4
 (2)ソロ楽器の巧拙    :4
 (3)アンサンブルの美しさ :3
 (4)展開の緩急と強弱   :3 [総合14ポイント]
 ☆平均的なデキ。ラストの楽団員たちの叫び声は余分かも。

◆クリュイタンス/パリ音楽院管弦楽団
 (1)リズムの同調性    :2
 (2)ソロ楽器の巧拙    :4
 (3)アンサンブルの美しさ :5
 (4)展開の緩急と強弱   :4 [総合15ポイント]
 ☆ボレロと言えばコレというくらい世間の評判も良いが、途中の不安定なスネアがタマにキズ。しかし名盤であることは確か。

◆ミュンシュ/パリ管弦楽団
 (1)リズムの同調性    :2
 (2)ソロ楽器の巧拙    :4
 (3)アンサンブルの美しさ :5
 (4)展開の緩急と強弱   :5 [総合16ポイント]
 ☆これも序盤の不安定なスネアさえなければ…徐々にテンポアップするミュンシュの演出は最高なだけに残念。これまた必聴の名盤。

◆デュトワ/モントリオール交響楽団
 (1)リズムの同調性    :4
 (2)ソロ楽器の巧拙    :4
 (3)アンサンブルの美しさ :5
 (4)展開の緩急と強弱   :4 [総合17ポイント]
 ☆デュトワのラヴェルに駄演無し。気品と迫力の両面が安心して楽しめる名盤、オススメです。

◆デュトワ/ニューヨーク・フィルハーモニック
 (1)リズムの同調性    :5
 (2)ソロ楽器の巧拙    :5
 (3)アンサンブルの美しさ :4
 (4)展開の緩急と強弱   :4 [総合18ポイント]
 ☆一糸乱れぬNYP。その正確さを嫌う人もいるようだが、トロンボーンソロとエンディングの見事さはピカ一。名盤中の名盤です。


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