任天堂“Wii”に見る「戦略のコンセプト」による差別化

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ニュースの切り口

今般、ソニー・コンピュータエンタテイメントの“プレイステーション3(PS3)”と任天堂“Wii”が相次いで発売されました。昨年発売されたマイクロソフトの“Xbox360”と合わせて、これで主要各社の据置型次世代ゲーム機が出揃ったわけです。
どの機種も発売日には大々的なイベントと、商品を手に入れるための長蛇の列が風物詩となり、マスコミも「ゲーム戦争勃発!」とこの状況をあおっています。

携帯型ゲーム機(NINTENDO DS)でソニー(PSP)に強烈な一撃を与えた任天堂にしても、この分野の(ファミコン創生期のような)覇権を取り戻すべく、負けられない戦いと位置づけているでしょう。
しかし、任天堂の岩田社長のインタビューから見えてきたのは、そうした「競合に勝つためのマーケティング戦略」ではなく、全く別の戦略のコンセプトでした。

さて、マーケティング戦略といえば、まず思い浮かぶのは“4P”のフレームワークでしょう。
 ●Product[商品戦略] :どのような商品を作るか
 ●Price[価格戦略]  :どのような価格で売るか
 ●Place[チャネル戦略]:どのような流通ルートで売るか
 ●Promotion[プロモーション戦略]:どのような販促をうつか

これまでの据置型ゲーム機の戦略では、いかに高精細なグラフィックにするか、ネット接続等いかに高機能化するかといった商品戦略が重視され、次いで価格・プロモーション・チャネルが検討されていました。
また、「ソフトの優劣でハードの選択肢は決まる」というゲーム機の特性から、ソフトのリクルートも商品戦略の重要課題でした。“プレイステーション2(PS2)”の大ヒットも、それまでは任天堂陣営だった“ファイナルファンタジー”シリーズをリクルートできたからです。
そしてこうした4Pの上位概念として、「競合に勝つ」というコンセプトがあったわけです。

しかし、任天堂の岩田社長はこう言います。

「ライバル会社ではなく、消費者のゲームへの無関心と戦っています」
「これは“NINTENDO DS”からの一貫したコンセプトです」

実は据置型ゲーム機の市場は、ここ数年縮小傾向にあります。こうした状況で売上のアップをはかろうとすれば、それは結果として少しずつ小さくなるパイの奪い合いを続けるということに他なりません。
そこで任天堂は、「今はシェア争いをするより、市場の拡大が急務」と判断したのです。
忙しいとか子供っぽいなどという理由でゲームを卒業してしまった人、ケータイやPCのゲームで十分と考えている人、そして元々「ゲームなんて」と敬遠している人たちに、ゲーム機を買ってもらい、市場そのものを拡大することを、“NINTENDO DS”と“Wii”の使命と位置づけたわけです。

つまり4Pの上位概念としての「戦略のコンセプト」の変更です。
そして重要なのは、「コンセプトの変更によって下位の4Pも変わる」という事実です。

「競合に勝つ」というコンセプトの下では、商品戦略は「競合より高機能」が重視されますし、「競合より低価格」「競合よりインパクトの強い広告」を必然的に考えることになります。
しかし「市場の拡大」というコンセプトの下では、これが「誰でもすぐ使いこなせる商品」「値頃感のある価格」「一度やってみたいと思わせる広告」といった具合に変わっていくはずです。

これこそが「戦略のコンセプト」の意義であり、また重要性と言えるでしょう。

さて、ではこのコンセプトの変更によって、任天堂は本当に競合他社と戦うことを止めたのでしょうか?
ここから先は想像ですが、「業界全体に貢献できればいい」というきれい事だけを考えているわけではないでしょう。いや、それどころか、この「市場の拡大」というコンセプトこそが、従来の「競合に勝つ」というコンセプトをも実現させる、任天堂にとっての『差別化の切り札』なのかもしれません。

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プロフィール

桑畑 幸博

慶應丸の内シティキャンパスシニアコンサルタント。
大手ITベンダーにてシステムインテグレーションやグループウェアコンサルティング等に携わる。社内プロジェクトでコラボレーション支援の研究を行い、論旨・論点・論脈を図解しながら会議を行う手法「コラジェクタ®」を開発。現在は慶應丸の内シティキャンパスで専任講師を務める。また、ビジネス誌の図解特集におけるコメンテイターや外部セミナーでの講師、シンポジウムにおけるファシリテーター等の活動も積極的に行っている。コンピューター利用教育協議会(CIEC)、日本ファシリテーション協会(FAJ)会員。

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